子どもをどう教育していくか、親なら誰でも持つ悩みですよね。
何歳からどんな習い事をさせるべきなのか、普段何気なくしている接し方は間違っていないか、考え出すとキリがありません。
私も3歳の娘がいますが、ただひたすら可愛がれば良かった時期を過ぎて、悪いことをした時の叱り方や、何かをやらせる時の動機づけの仕方など、色々と考えることが多くなってきました。
子どもの教育で一番難しいのは、教育は誰もが通っている道であるがゆえに、なまじ経験者が多く、その人たちの「経験」や「勘」で語られることが多い、ということです。
「経験」や「勘」は成功体験の一つとして貴重な実例ではありますが、果たしてそれが自分の子どもにも有効なのか?その判断は非常に難しいものです。
先輩パパママから、特定の習い事を強く勧められたり、独自の教育論を語られた経験がある人もいるのではないでしょうか。
先輩といえば実の両親もパパママの大先輩です。私の親は、子育てについて成功体験を押し付けてくることは無いのですが(私を育てたことは成功体験として認識していないのかもしれません)、両親にあれこれ言われる、そんな人も多いと思います。
今回はそのような「経験」や「勘」といった属人的なものではなく、「科学的な根拠がある」、つまり「再現性のある」教育の仕方について、ご紹介したいと思います。
1.科学的と科学的ではないことの違い
(1)科学的とはどういうこと?
そもそも「科学的」とはどういうことでしょうか。
簡単にいうと「統計的な結果から、因果関係がはっきり証明できる」ということです。
例えばAとBでグループ分けをします。
A.毎日30分間読書をしている子ども
B.全く読書をしない子ども
AとBそれぞれのグループに、文章の読解力を試す試験を受けさせて、もしAグループの平均点がBグループの平均点を10点上回った、という結果が出れば、「毎日30分の読書をさせると文章の読解力が上がる」という結論が出ます。これが科学的な根拠のある結論です。
ただし、読解力には日頃の読書以外にも、学校での教育環境、家庭や習い事での教育環境、親からの遺伝など、様々な要素が関連しています。
子どもに毎日30分の読書をさせている家庭は、他の教育にも熱心な可能性がありますので、単純に「読書の時間」だけを要因と考えて読解力の高さにつながる、と結論づけるのは簡単なことではありません。
有効な結論を得るためには調査において「読書の時間」以外の要素で差がつかないようにするなど配慮が必要ですので、科学的であるという説明には、統計学などの高度な知見が求められます。
(2)逆に科学的でないこととは?
一方で、「科学的でない」こととは何でしょうか。
例えば「経験」や「勘」で語られることは大抵、科学的ではありません。先ほどと同じ、読書と読解力の関係で解説します。
①私は毎日30分の読書をしたことで、文章を読み解くのが得意になったから、読書は読解力に良い
②東大生の話を聞くと、多くの学生は毎日読書をしていたので、読書は読解力に良い影響がある
一見もっともらしいですし、感覚的には間違ってはいないものの、これらは科学的とは言えません。
①は、個人的な体験談なのであまりにサンプル数が少なすぎます。他の人が同じことをしても同じ結果が得られるかどうかの検証がなされていません。
②は、東大生の多くが読書をしていただけであって、そこには相関関係があるに過ぎません。読書をしたことが要因で東大に入れた、という因果関係では説明がつかないのです。
もし「子どもを全員東大に入れた教育メソッド」や「一流アスリートを育てた練習法」などがあれば、それは成功体験としては素晴らしいですが、その方法自体が効果的なのか、実は遺伝や環境の要因が大きいのか、その説明はつきません。
例えば短距離のオリンピック選手同士が結婚し、子どもが「一流アスリートを育てた練習法」の教育を受けて、オリンピックで金メダルを取ったとします。
ここで陸上とは縁のない両親が「一流アスリートを育てた練習法」を見たとしても、同じことをさせればうちの子どもも金メダルが取れそうだ、とは考えないですよね。どう考えても遺伝が影響していると考えるからです。
極端な例でしたが、「子どもを全員東大に入れた教育メソッド」も同じことです。子どもが東大に入る要因はたくさんあります。アスリートと同様に遺伝的な要素は間違いなくあるはずですし、家庭環境や通っている学校も大きな要素となっているはずです。
これらの要素を考慮しないで、教育法だけを真似ても、果たして同じ効果があげられるのかは分からないということです。
もちろん、全てを理屈で考える必要はないですし、そもそも理屈だけでできることではありません。
先輩たちが実践の中で身につけてきた教育のノウハウや成功体験は貴重な財産です。それぞれの親が、うまく消化して、取り入れるべきだと思います。
私がここでお伝えしたいのは、教育にはこれは正解、これは不正解、という明確な答えがあるわけではありません。
その中で、科学的に根拠がある方法はどのようなことなのか、そしてそれはなぜなのか、という考え方を知っていただくことで、子育てをする皆さんの判断の拠り所として活用いただきたいと思っています。
2.科学的な根拠に基づいた教育の正解とは?
具体的に、科学的根拠のある教育の方法について解説したいと思います。
繰り返しになりますが、これが唯一の答えではなく、統計的に有意であることが認められていることを正解としています。
(1)ご褒美はあげても良い?
結論、ご褒美はあげても問題ありません。
人間はつい目先の楽しいことを優先して、本来やらなければならないことを後回しにしがちです。勉強よりゲームがしたい、仕事よりお酒を飲みたい、そんなものです。
そんな時に、目先やることの優先順位をあげるためにインセンティブとしてご褒美をあげるのは有効です。大人だってそうなんですから、子どもも一緒です。
ご褒美をあげると、ご褒美のための勉強になってしまって、勉強意欲が低下するのではないか、そんな不安を持つ人がいるかもしれませんが、科学的には勉強意欲の低下につながらないことが分かっています。ご褒美を活用して、子どものやる気スイッチをうまく刺激しましょう。
(2)どちらの結果にご褒美をあげるべき?
A.テストで良い点をとった
B.本を読んだ
正解はBです。
なぜなら、子どもはテストで点をとるための具体的な方法を知らないからです。テストで良い点を取るために何をすれば良いのか、具体的な行動レベルに踏み込んで示してあげることが有効です。
テストで良い点を取らせたいのであれば、良い点を取るための行動を設定して、それが実行された時にご褒美をあげるようにしましょう。
(3)ご褒美にはどちらをあげるのが正解?
A.お金
B.トロフィー
結論、小学生にはB.トロフィーが有効でした。
これは私の解釈ですが、トロフィーの方が頑張った結果が分かりやすく残るから、ということでしょうか。
ただしお金をご褒美にしてはいけない、ということではありません。
お金をご褒美にするのであれば、あげると同時に、お金の使い方や貯め方、という金融教育をあわせて実施しましょう。
それによって自分で努力してお金を稼ぐ、計画的に貯める、使う、ということができるようになります。
(4)子どもは褒めて伸ばすべき?
結論は、褒めれば良いというものではない、ということです。
褒めると自己肯定感が高まると思われがちですが、実は褒めること自体が自尊心につながるわけではない、ということが分かっています。
褒められたことそのものではなく、学力が高かったことが自尊心につながっていた、というデータもあります。
自尊心に直接アプローチする方法は科学的には有効ではないということです。
(5)褒め方はどちらが正解?
A.頭が良いね
B.よく頑張ったね
正解はBです。
子どもは能力を褒められるとやる気が低下することが分かっています。
すぐに変えることのできない能力そのものではなく、その過程の努力を褒めてあげるようにしましょう。
努力を褒めるためには子どもが達成したこと、その過程で頑張ったことをきちんと観察して、具体的に指摘してあげることが大切です。
(6)テレビゲームは悪影響?
結論として、テレビやゲームそのものが子供に与える影響は決して大きくありません。
1時間のテレビゲームを辞めさせたとしても、その1時間が勉強の時間に充てられることはほとんどないことが分かっています。
もちろん程度によりますので、無制限にテレビゲームをやらせることは良くないですが、1日1時間程度の息抜きであれば問題ないということです。
ゲームの世界から悪影響を受けるのでは、と気にする人がいるかもしれませんが、子供はそのまま真似するほどバカではないのです。
(7)「勉強しなさい」に効果はある?
結論としては、ほとんど効果はありません。
なぜなら、親がほとんど労力をかけない安上がりなアプローチだからです。
上司が部下に「しっかりやっとけよー。」と言うのと同じです。
効果がある方法は、親が勉強するということにより踏み込んで介入するアプローチです。
・横について勉強を見てあげる
・勉強したか確認する
・時間を決めて守らせる
本当に勉強をさせたいのであれば、単に「勉強しなさい」と言うだけではなく、より踏み込んで介入してあげるか、もしくは学習塾などの外部リソースに頼るべきです。
(8)何歳から教育に投資するべき?
結論は、早ければ早いほど効果的です。
年齢別の投資効果を測定したデータでは、最も効果が高かったのは子供が小学校にあがる前の就学前教育でした。
10歳で100万円を投資するより、3歳で100万円を投資したほうが、生涯賃金に与える影響が大きかったのです。
教育への投資はとにかく子どもが小さいうちに始めるのが良い、というのが科学的な結論です。
3.もっと詳しく知りたい人は
今回の記事は、中室牧子先生の「学力の経済学」を参考文献として、私の理解を交えて紹介してきました。
中室先生は教育経済学の大学教授ですが、経済学の先生らしく、書かれていることは論理的で、一つ一つの問題に対して、エビデンスとなるデータを交え、とてもクリアに解説をされていました。
また論理的な一方で、単なるデータ分析や理想論にとどまらず、日本の教育制度や現場の実情を踏まえた、具体的な提言も織り込まれており、教育に関わる方にとっても示唆に富んだ内容の本だと思います。
私自身、小さい子どもを持つ親として、参考になる事実や考え方がたくさんありました。
ここでご紹介した教育の方法についても、なぜそうなのか、具体的なデータも含めて詳しく解説されていますので、より踏み込んで知りたい人は是非読んでいただければと思います。
子育てはとても忙しく、毎日が戦いの連続です。教育なんて考える暇もない、という人も多いと思います。
そんな忙しい日々だからこそ、きちんと子どもに関われる限られた時間の中で、子どものためにできる最良のアプローチをしてあげたいものです。
良い方法を見つけたら、気張らずに、できることから実践してみましょう。
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