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持ち家か賃貸か?「物価変動」を考慮した試算結果を比較

住まい

みなさんは自宅は購入派ですか?賃貸派ですか?

初めにお伝えすると私は断然購入派です。

今回は、FP1級を持ち、都市銀行で個人の資産運用に関する企画にも携わっていた元金融マンの立場から、購入と賃貸を経済的な視点で比較します。

自宅を「不動産資産」という観点で捉えた場合の価値を知ることで、家を買った方が良いかどうか迷っている方に、新しい判断軸を提供いたします。

【記事を書いた人】

ぴっちー
✔︎ 都市銀行で不動産担保評価実務経験10年以上
✔︎ 不動産売買契約は10回以上経験
✔︎ ファイナンシャル・プランニング技能士1級

1.不動産にはどんな価値があるのか?

不動産にはどのような利用方法と価値があるでしょうか。

3つの利用方法について解説します。

(1)自分で住む

自宅として自分で住む、という利用方法です。

自分で利用する場合はお金が入ってくるわけではありません。もし自分の持ち物でなければ家賃を払う必要があったはずなので、「借りていれば支払う必要があった賃料」が間接的に金銭価値と言えます。

なお、住宅ローンを借りて不動産を購入する場合は、自宅として自分自身が住むことが条件になっています。

(2)賃貸する

不動産は賃貸することができます。

この場合は「賃貸の対価として受け取る賃料」が金銭的な価値となります。

(3)売却する

不動産は買い手が付けば売却することが可能です。

この場合は「売却代金」が金銭的な価値となります。

管理費や税金などのランニングコストが重すぎて借り手は見つからないし、一円で売りに出しても買い手がつかない、そんな不動産が全くないわけではありません。

極端に需要が限られる不動産の中には価値がほぼ無い、ということもありますが、基本的には3つの利用方法と価値があると考えて問題ありません。

2.自宅の購入はなぜ資産形成につながるのか?

購入と賃貸の大きな違いは、資産として残るか、残らないか、という点です。

賃貸は何かを買うわけではないので基本的には何も残りません。

一方で購入は、購入した瞬間に不動産は自分のものになります。

住宅ローンを組めば、購入と同時に借入がついて回りますが、返済後は不動産だけが残ります。そして、好きな用途に利用することができます。

ただ、資産になるから購入した方が良い、という単純な話ではありません。

買えば、購入代金を払わないといけませんし、諸費用もかかります。持っている限り税金もかかります。

賃貸と比べて有利かどうかは金銭的に比較してみないと分かりませんし、金銭的な面以外にも考慮すべき事情があります。

そこでまず、購入、賃貸それぞれの場合の具体的な費用を見ていきたいと思います。

3.購入と賃貸の経済的比較

ここでは、全く同じ物件に35年間住み続けたと仮定して、購入の場合と賃貸の場合を比較します。

(1)住むにあたっての初期費用

 支払先購入賃貸
不動産購入代金売主8,000万円
住宅ローン借入銀行+ 8,000万円
仲介手数料仲介業者33万円
敷金貸主30万円
礼金貸主30万円
融資手数料銀行176万円
不動産取得税税金35万円
登記費用税金110万円
印紙税税金2万円
修繕積立金一括納付管理組合120万円
合計443万円93万円

【前提条件】
それぞれの算出根拠を以下に記載します。金額は丸めていますのでご了承ください。

・不動産購入代金(8,000万円)
70㎡の新築マンションを坪単価377万円で購入

・住宅ローン借入(8,000万円)
不動産購入代金相当を借入

・仲介手数料
新築マンションの為、持ち家の場合は仲介手数料は無し
賃貸は賃料1ヶ月分と想定(通常は0ヶ月から1ヶ月程度)

・敷金
賃料の1ヶ月分と想定(通常は1ヶ月から2ヶ月程度)

・礼金
賃料の1ヶ月分と想定(通常は0ヶ月から2ヶ月程度)

・融資手数料
住宅ローン借入金額の2.2%(金融機関によって条件は異なります)

・不動産取得税
分譲マンションの実例をもとに算出(物件ごとに異なります)

・登記費用
所有権保存登記、抵当権設定登記、司法書士への手数料を実例をもとに算出(物件ごとに異なります)

・印紙税
売買契約書の印紙税(売買金額によって異なります)
住宅ローンの契約書印紙税は考慮していません(書面で交わす場合はそちらも別途かかります)

・修繕積立金一括納付
分譲マンションの実例をもとに算出(物件ごとに異なります)

(2)住んでいる時の維持費用

 支払先購入(当初→35年後)賃貸(当初→35年後)
賃料管理費貸主30万円
→ ▲18万円
更新料貸主1.3万円
→ ▲0.8万円
住宅ローン返済額(元金)銀行14.5万円
→ ▲24.5万円
住宅ローン返済額(利息)銀行10万円
→ 0万円
固定資産税都市計画税税金3万円
→ ▲1.5万円
管理費修繕積立金管理組合4万円
火災保険料保険会社0.2万円0.1万円
合計▲31.7万円
→ ▲30.2万円
31.4万円
→ ▲18.9万円

【前提条件】
それぞれの算出根拠を以下に記載します。金額は丸めていますのでご了承ください。

・賃料、管理費(現在 30万円 → 35年後 18万円)
現在の賃料相場から月額坪単価14,000円と想定
現在の新築と築年数35年の賃料格差を参考に、35年後は賃料が4割減少すると仮定

・更新料(現在 1.3万円 → 35年後 0.8万円)
賃貸の場合は2年に1度、賃料1ヶ月分の更新料がかかると想定

・住宅ローン返済額/元金(現在 14.5万円 → 35年後 24.5万円)
35年の元利均等返済、金利は全期間固定1.5%と想定
元金と利息を合わせた元利金返済額は全期間24.5万円で変わらず、元金返済額は利息を引いた額になります

・住宅ローン返済額/利息(現在 10万円 → 35年後 0万円)
8,000万円×1.5%=120万円の月割額が当初の利息額
年数とともに減少し、35年後にかけて0(ゼロ)円に近づく

・固定資産税、都市計画税(現在 3万円 → 35年後 1.5万円)
新築マンションに適用される固定資産税の軽減税率は考慮しない前提
分譲マンションの実例をもとに算出し、35年後は建物の減価に伴い5割減少すると仮定(物件ごとに異なります)

・管理費、修繕積立金
分譲マンションの実例をもとに算出(物件ごとに異なります)

・火災保険料
持ち家の場合は「専有部分建物」「家財」、賃貸の場合は「家財」を対象に試算(補償内容によって異なります)

(3)トータルの費用比較

購入賃貸
初期費用▲443万円▲93万円
維持費用▲1億2,999万円
(=(31.7万円+30.2万円)/2×420ヶ月)
▲1億563万円
(=(31.4万円+18.9万円)/2×420ヶ月)
総支払額▲1億3,442万円▲1億656万円
残った資産(差引)+2,400万円+30万円
実質負担額▲1億1,042万円▲1億626万円
実質負担額(1ヶ月あたり)▲26.3万円▲25.4万円

【前提条件】
それぞれの算出根拠を以下に記載します。金額は丸めていますのでご了承ください。

・初期費用
前述した初期費用合計値

・維持費用
前述した維持費用の35年分合計値

・総支払額
初期費用と維持費用35年分の合計値

・残った資産
持ち家は現在の新築と築年数35年の販売価格の格差を参考に、35年後は新築時から価格が7割減少すると仮定して8,000万円×3割=2,400万円と想定
賃貸は敷金が満額返済されると仮定

・実質負担額
総支払額から残った試算を控除した35年間での実質負担額合計

・実質負担額(1ヶ月あたり)
実質負担額を420ヶ月で割った1ヶ月あたりの実質負担額

以上を踏まえると、賃貸の方が実質的な負担額が少ないという結果になりました。

このような計算から結局、賃貸が有利と考えている方も多いのでは無いでしょうか。

実はここまでの計算において、考慮していないことがあります。

それは「物価の上昇」です。

過去の日本においては、ほとんど物価が上がらない時期がありましたが、それでもここ35年間の中で20%程度は物価が上昇しています。これは年率換算でおおよそ0.5%になります。

特に近年では世界的な物価高の影響を日本も大きく受けています。

今後も世界人口は増え続け、2050年頃に100億人を突破するというのが大方の見方です。それに伴う世界経済の成長が間違いない中、日本の物価上昇も従来のような緩やかなペースではなく、急激なペースで進んでも不思議ではありません。

そこで、先ほどの試算結果に「物価の上昇」を加味して、再度2パターンの試算をしたいと思います。

(4)物価の上昇を踏まえた試算

① 年率0.5%の物価上昇

年率0.5%で物価が上昇すると35年後にはモノの価格は約20%上昇します。

物価の上昇は35年後の維持費用と物件価格に影響します。金額以下のように変わります。

・賃料、管理費
35年後の賃料を物価上昇により、18万円から21.6万円に変更

・更新料
35年後の更新料を物価上昇により、0.8万円から0.9万円に変更

・固定資産税、都市計画税(現在 3万円 → 35年後 1.5万円)
35年後の固定資産税、都市計画税を物価上昇により、1.5万円から1.8万円に変更

・残った試算
35年後の物件価格を物価上昇により、2,400万円から2,880万円に変更

物価が0.5%の上昇を続けた場合の持ち家と賃貸の比較を改めてお示しします。

購入賃貸
初期費用▲443万円▲93万円
維持費用▲1億3,062万円
(=(31.7万円+30.5万円)/2×420ヶ月)
▲1億1,340万円
(=(31.4万円+22.6万円)/2×420ヶ月)
総支払額▲1億3,505万円▲1億1,433万円
残った資産(差引)+2,880万円+30万円
実質負担額▲1億625万円▲1億1,403万円
実質負担額(1ヶ月あたり)▲25.3万円▲27.2万円

緩やかでも物価上昇を加味すると、持ち家が有利という結果に変わります。

物価の上昇は持ち家、賃貸に以下のような影響を及ぼすからです。

・持ち家
維持コストは若干上昇するものの、もともと負担の割合が大きい項目ではないので影響は軽微
資産としての不動産価格が物価に合わせて上がるため、実質負担額はむしろ減る

・賃貸
維持費用の全てが物価に合わせて上昇するため、影響が大きい
物価上昇の恩恵は受けられない

② 年率2.0%の物価上昇

年率2.0%で物価が上昇すると35年後にはモノの価格は約100%上昇します。

金額は以下のとおり変わります。

・賃料、管理費
35年後の賃料を物価上昇により、18万円から36万円に変更

・更新料
35年後の更新料を物価上昇により、0.8万円から1.6万円に変更

・固定資産税、都市計画税(現在 3万円 → 35年後 1.5万円)
35年後の固定資産税、都市計画税を物価上昇により、1.5万円から3.0万円に変更

・残った試算
35年後の物件価格を物価上昇により、2,400万円から4,800万円に変更

物価が2.0%の上昇を続けた場合の持ち家と賃貸の比較を改めてお示しします。

購入賃貸
初期費用▲443万円▲93万円
維持費用▲1億3,314万円
(=(31.7万円+31.7万円)/2×420ヶ月)
▲1億4,511万円
(=(31.4万円+37.7万円)/2×420ヶ月)
総支払額▲1億3,757万円▲1億4,604万円
残った資産(差引)+4,800万円+30万円
実質負担額▲8,957万円▲1億4,574万円
実質負担額(1ヶ月あたり)▲21.3万円▲34.7万円

それぞれの負担額が変動した理由は、物価上昇率0.5%での解説と同じです。

より顕著に負担額の差となって表れたと言えます。

4.結論

(1)まとめ

持ち家のメリットは不動産資産を保有していることで物価上昇時に恩恵を受けられる点です。

また、35年の試算では表現できませんでしたが、借入金の完済後は元利金返済(試算では24.5万円)が無くなるため、毎月の負担金額が一気に少なくなる点も大きなメリットです。

一方で、持ち家の最大のデメリットは流動性を失うという点です。もちろん売買はできますが、その時々の市場動向によっては、希望の価格で売却が出来ないなどの可能性も出てきます。また、初期費用や維持費用が高くなりやすい点もデメリットと言えます。

賃貸は初期費用や当初の維持費用が軽い点がメリットです。また初期費用が安いため、住み替えが容易な点もメリットと言えます。

一方で、物価上昇時にはその分が賃料が上がり、負担が増える点はデメリットです。また、賃貸の場合は住んでいる限り賃料がかかり続けます

(2)持ち家派としての結論

最後に、私が持ち家派として何を重視しているかを解説したいと思います。

① 「物価上昇に強い現物資産である」ということ

一つ目は、物価上昇(インフレ)に強い現物資産である、ということです。

個人の生活にとって、一番の脅威は物価の上昇でしょう。物価の上昇は言い換えれば「お金の価値の下落」です。現金預金は物価上昇とともに目減りをしていきます。

そんな中で、個人が現物資産として一番取得しやすいのが住宅です。生活と不可分な資産であるために利用しやすい上に、物価上昇リスクへの備えとなる、非常に優秀な資産と言えます。

単に物価上昇への備え、というだけであれば株式や投資信託で目的を達成することも可能です。

ただ私は、金融資産だけではなく、不動産という目に見える現物資産を持つことが、将来の予測不能な出来事に、出来る限り備える手段になると考えています。

個人資産の理想的なポートフォリオとして、不動産を持つ意義は大きく、その筆頭格として自宅は購入、という結論に至っています。

② 資産形成において唯一、「融資」を利用して購入できる資産である

個人の資産形成において、原則的な手法はコツコツと投資することです。基本的には元手がないと投資をできません

そんな中で、不動産だけは唯一、「融資」を利用して購入することができます

8,000万円の資産を得たいと思ったら、通常はコツコツを積み立てて、貯まった時に初めて購入できるのが普通ですが、住宅ローンだけは別で、融資を利用することで先に購入ができて、あとでコツコツ返済していけば良いのです。

この点はさきほど挙げた「物価上昇」と密接に関係します。

何十年もかけて貯めてから購入する場合は、何十年分の物価上昇の恩恵は受けられません。一方で先に購入した場合は、何十年分の物価上昇の恩恵を受けることができるのです。

資産形成の観点でも、融資を利用できる点はメリットが大きいと考えています。

また、住宅ローンを利用した場合、金利負担の中に団体信用生命保険の保険料が組み込めれています。

団体信用生命保険とは、住宅ローンの借入人が、死亡や高度障害となった際に、住宅ローン残高相当が保険金として支払われて、ローンの返済に充てられる保険です。

つまり、前述の例でいうと、最大8,000万円の死亡保険に入ることと同じなのです。

掛け捨てとはいえ、これだけの保険に加入するには相応の負担がありますので、団体信用生命保険に加入できるという点だけでも融資を利用できることは大きなメリットと言えます。

(3)最後に

ここでの比較は首都圏の新築マンションを前提に試算した結果です。

住宅の種類や地域によって、前提条件も異なりますし、変数も変わってきます。

ただ、基本的な考え方は変わりませんので、それぞれに合わせて数値を変えて比較をしてみてください。

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